「ミッドウェイ」エメリッヒ版を鑑賞する。

「MIDWAY」
「ミッドウェイ」
配給:東宝/キノフィルムズ
制作:ローランド・エメリッヒ・フィルム
脚本:ウェス・トゥーク
監督:ローランド・エメリッヒ
2020年9月11日封切り

作ってること自体を知らなかったが、映画メジャーじゃなくて独立系の映画なのね。エメリッヒならではの資金力というか…よく作れたな。このキノフィルムズと言う配給は木下グループの映画部門で、けっこう色んな映画に出資してる。どういう繋がりなんだか。76年の「ミッドウェイ」も封切りで観てる。あっちはメジャーで大物俳優のオールスターキャストだけど、大味で締まりのない映画だった。その点このエメリッヒ版は一味違うね。冒頭はいきなり日本の公園から話が始まる。レイトンと言うアメリカの情報将校が離任に際して山本海軍大将から帝国への理解を求められる。おおう、人物が描かれている。だがその四年後、日米は開戦。傲岸不遜だが腕はいいパイロット、ディック・ベストが本作の主役らしい。この小憎たらしい顔に見覚えがあるなと思ったら「アリータ・バトル・エンジェル」でザパンを演ってた人だ。同期で親友のロイを帝国の真珠湾攻撃で奪われてしまう。このアタックオブパールハーバー!さすがエメリッヒ。情け容赦のない艦爆で次々沈むアメリカ艦隊の地獄絵図。これは日本人でも帝国を恨むわ。この映画ではあくまで海軍視点なので描かれなかったけど、この日マレー沖でも海戦を開いてて帝国軍破竹の大進撃開始、フィリピンからマッカーサーを追い落とし、アイシャルリターンを宣言されちゃうのね。ディックの載る空母エンタープライズはたまたま偵察行動に出てて難を逃れるが、アメリカは艦隊勢力のほとんどを行動不能にされ、追撃もかわされる。もはや帝国とアメリカの艦隊兵力差は三倍以上、この危機に登用されたのは変わり者を自認するニミッツ少将。ここで頼りとするのがあのレイトンだ。前任のキンメル将軍が索敵情報を軽視したのを反省し、連合艦隊司令長官山本と面識のあるレイトンに帝国の次の手を予測せいと下命する。ドウーリトル航空爆撃や珊瑚海海戦で日米は一進一退。諜報戦で勝利しつつあるレイトンは帝国の次の狙いをミッドウェイ環礁であると推測する。ニミッツは虎の子の空母全艦を投入し、連合艦隊の待ち伏せを図る!USA!USA!…76年スマイト版「ミッドウェイ」では確か連合艦隊温存を優先して転進命令を出すのは南雲中将でこれを判断ミスとする描き方だったと思ったけれど、エメリッヒ版では史実通りに山本が追撃をあきらめる。その代わりそれ以外すべての判断で南雲中将はミスを犯す。教科書通りの采配ならスマートにこなすが臨機応変に欠けると評される所以である。命知らずのディックも腕を買われて隊を任されると、自分の判断ミスで若いパイロットが死んでしまうのを目の当たりにし、考えを改めていく。逆にディックを「騎兵隊」と馬鹿にしていた慎重派の上官マクラスキーが根拠の薄い賭けで連合艦隊主力を発見し、猛攻の末空母加賀の甲板を直撃、誘爆を引き起こして轟沈させた。アメリカ側は空母三隻とミッドウェイ島航空戦力を投入し、陸上航空隊と艦載機の半分、空母ヨークタウンを失ったが、連合艦隊は空母四隻と艦載機のほとんどを失った。その後も誤情報が錯綜し、ミッドウェイ島の攻略は不能と判断され、帝国は戦機を失する。
海軍きっての切れ者、山口少将が果敢に反撃するも武運つたなく、消火できなくなった蒼龍と共に自沈するのは涙無くして見れなかった。ディックが戦死したかもしれないと言われて、ひとりトイレで嗚咽する奥さん、エンパイアステートビルを造り交通事故で死んだ叔父を誇りとする甲板作業員が救出された日本艦で将校を挑発し、殺される時の毅然とした態度。真珠湾の艦隊司令部では連合艦隊の転進を聞いて、勝った勝ったと大喜びだが、帰還したホーネットもエンタープライズも満身創痍だ。
戦争に勝者などいない、と取ってつけた様な字幕がつくが、あの爆炎と猛攻の後だと心に染みる。久々に戦争映画を観た様な気がした。


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