「2分の1の魔法」を鑑賞する。

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「2分の1の魔法」
「2分の1の魔法」
配給:東宝/ウォルト・ディズニー・ジャパン
制作:ピクサー・アニメーション・スタジオ
脚本:ダン・スキャンロン/ジェイソン・ヘドリー/キース・ブーニン
監督:ダン・スキャンロン
2020年8月21日封切り

コロナ騒動で公開が停止されていた本作が五ヶ月ぶりに封切られた。ピクサーとしては22作目、「トイストーリー4」に次ぐ新作だ。
正直ラセター無き後のピクサーにどれほどの実力が残っているかと訝っていたが、杞憂だったと見える。いい映画だった。
舞台はマッシュルームトンと言うアメリカによくある郊外型の都市。そこに住むのはファンタジーに登場するエルフや魔獣たちだった。剣と魔法に頼る世界に科学文明が押し寄せると、その便利さに己の実力や魔法を忘れていく。そんなアメリカナイズされた街に暮らすエルフの兄弟が主人公だ。優しく思慮深いが臆病で引っ込み思案な弟イアンは16歳の誕生日を迎える。だが人生をやりくりしていく自信に欠け、物心つく前に亡くなった父ウィルデンを敬慕している。陽気でお調子者だが短慮で他人と合わせることが出来ない無職の兄バーリーは、陰にこもりがちな弟を励まそうとあれこれ干渉するが基本的に出来のいいイアンにはありがた迷惑だった。女手ひとつで二人を育ててくれた母ローレルから実は父からのお祝いがあると聞かされ仰天する。それは大昔の魔法使いが術に使っていた魔法の杖だった。それを使えば一日だけ父を復活させられるというのだ。父の記憶を持つバーリーは必死に魔法を試すが成功せず、そもそも魔法を信じていないイアンが杖を振るうとそこには下半身だけの父が現出した!中途半端だったのだ。知識だけは豊富なバーリーと才能だけはあるらしいイアンは復活の魔法を完成させるべく旅に出ることを決意するのだった。
物質文明を享受する魔獣たちの零落っぷりがおかしい。走らなくなったケンタウロスとか飛べなくなったフェアリーとかが、二人の冒険に引っ張られて自分を取り戻す姿が泣ける。ことに教導役のマンティコア。
父と出会うための旅は兄弟のこれまでを振り返る旅でもあった。母親の存在感もいい。最後の試練がこれまでの努力を無にしようという時、イアンが示すたったひとつの冴えたやり方がいい。


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「トイストーリー4」を鑑賞する。

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「トイストーリー4」
「トイストーリー4」
配給:東宝
制作:ディズニー・ピクサー・アニメーション
原作:ジョン・ラセター/アンドリュー・スタントン
脚本:ステファニー・フォルソム/アンドリュー・スタントン
監督:ジュシュ・クーリー
2019年7月12日封切り

ピクサー自慢のマイルストーンムービー「トイストーリー」が帰ってきた。実に九年ぶり。ジョン・ラセター無き後、あの傑作「トイストーリー3」の正統な続編だ。「トイストーリー3」があまりに見事な映画だったので、なんで今更感は増し増しだったが、なんのなんの。3が綺麗事に思えたひねくれ者には打ってつけの続編だろう。

映画は3ではすでに姿を消していたウッディの恋人、陶器人形のボーがどうして別れることになったかの顛末から始める。飽きやすく身勝手なこどもたち。それはそのままアンディからおもちゃを託されたボニーへの写し絵となる。
ウッディは飽きられかかっていた。だが感受性豊かで引っ込み思案なボニーを見守ることに躊躇はない。それが自分の存在意義だと信じて疑わない。
ある日ボニーは幼稚園の工作でフォークのおもちゃを自作した。フォーキーと名付けられたそれは他のおもちゃ同様に意識を持つ様になるが、自分の本分は使い捨て食器だと思っている。スキあらばゴミ箱に戻ろうとするフォーキーを「お前はボニーお気に入りのおもちゃなんだぞ!名誉なことなんだ!」と諭すウッディ。バズの時とは逆だ。スペースレンジャーであると信じているバズ・ライトイヤーを「単なるおもちゃなんだ!空なんか飛べない!」と一番人気を持って行かれて嫉妬していたウッディ。それが今は…。
おもちゃである事に納得できないフォーキーはついに脱走してしまう。追いかけるウッディ。この逃避行でふたりは和解するが、帰る途中で見かけたアンティークショップに懐かしいボーの照明を見つけて潜入することに。そこに居たのはウッディと同じアンティークトイのギャビー・ギャビーだった。

この後映画はアッと驚く価値観の転換を示唆して終わる。
それは今までの123を否定するものではないが、観客にある種の救いを用意する。

まさしくバズの決め台詞「さぁ行こう!無限の彼方へ!」なのだ。


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「ベイマックス」を鑑賞する。

「ベイマックス」パンフ
「ベイマックス」
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ
制作:ディズニーアニメーション
原案:スティーブン・シーグル/ダンカン・ルーロー
脚本:ロバート・L・ビアード/ダニエル・ガーソン/ジョーダン・ロバーツ
監督:ドン・ホール/クリス・ウィリアムズ
2014年12月20日封切り

素晴らしい。
ディズニーとも思えん。
なにこの面白映画!
こういうのを観ると、今ピクサーは何をしているのかと思う。
日本へのラブレターみたいな映画だから、
「ニッポン偉い!ニッポン凄い!」と自己拡張を謀っている
ニワカ右翼の皆さんにも受けるンじゃないかなッ。

以下ネタバレあり。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
冒頭からいきなりロボットの野良試合だ。
この国では闘犬や闘鶏の様に、ロボットの
殴り合いで賭け試合が行われている。
金儲けでなく、そこでの勝負にこだわる主人公ヒロ。
工学の天才である彼は自分のアイディアが通用する場が
欲しいのだ。
同じ様に工学の才がある兄タダシは、弟の天分がそんな
ところで使われるのが口惜しい。
諭したところで聞かぬ気の弟を自分の大学のゼミへ連れて行く。

場末でロボットバトルが横行する国だ。
そこには高い技術力の堆積がある。
タダシの大学は科学オタクの梁山泊だった…。

この一連の流れが素晴らしい!
無理な説明もないのに、物語に沿って彼らの背景が逐一
解って行く。

そこでのタダシの研究は人間をトータルにヘルスケアする
介護ロボット。その名もベイマックスだった。

ゼミでロボット工学の先人キャラハン教授に焚き付けられたヒロは、
一念発起して画期的なマイクロロボットの開発に成功する。
だが記念すべきそのお披露目の日、誰よりも彼を信じ、
励ましてくれた、大きな兄、タダシを失ってしまう…。

生きる意味も気力も失くしたヒロの傍らであのベイマックスが起動する。
「こんにちは。わたしはベイマックス。あなたの心と身体をサポートします」

なんだー!これ!素晴らしい!あらかじめ約束された物語!
語るべき時に語られる言葉!いい脚本は全てを凌駕する!

後半、兄の復讐に我を忘れるヒロの暴走と、悪役の悪の理屈がもっと
相似鏡の様に重なってくれると、もう間違いなく本年一の傑作だったのだけど、
もう一歩が足らなかった…。

それでも随所にスタッフの映画への愛、日本アニメや漫画への愛があふれてて、
初めてビッグヒーロー6が結成され、ベイマックスVer2として飛行プロップを
試すシーン。空を飛ぶ快感も然ることながら、足から火を吹く飛行イメージ。
なんでこれが鉄腕アトムで実現しないのかとッ!

心からリラックスしたヒロが足をプラプラさせるのを見て、同じ様に足を
動かすベイマックス。ふたりがバディになったと思えるシーンで、
「ベイマックス、もう大丈夫だよ」を口にすれば全部終わるのだと改めて
語られる流れ。そして絶望的状況で、たったひとつの冴えたやり方を提案する
ベイマックスにヒロがかける言葉は…。

本編中のキックアスであるフレッドが最後に知る真実も美味しい、スタッフロール
後のオマケまでピクサーっぽい見応えのある映画でした。

「さぁ!語ろうではないか、息子よ!」


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「おおかみこどもの雨と雪」と「メリダとおそろしの森」とを鑑賞する。

「おおかみこどもの雨と雪」
なぜ映画監督になると、みんなこう云う傾向に流れるのだろうか…。
絵作りがリアルになり、幻想は鳴りを潜める。
ジュブナイル…ではないわな。
主人公は一橋大学に通っている「花」なんだけども、
ナレーションはその娘である「雪」が追想で語っている。
となれば「花」にはなにか変事が予想されるのだが…。
表現や演出は素晴らしいのだけど、それが物語の
ベクトルには繋がって来なかった、様に思える。

なんで狼が嫌われるかって、そりゃ牧畜の敵だからで、
君が羊を連れて歩いていたら、好きとか云えんだろう。

まぁでも悪い映画ではなかった。
自分なら雪が新しい人生を始めるところまで描くと思うが。

「メリダとおそろしの森」
格段の出来!
ピクサー初のジュブナイル、女性主人公!
それで全体のトーンがあんなにダークだったのか…。
今までの子供向け?映画にない禍々しさ。
しかもケルティックですよ!
個性あふれるキャラクター、その重層的な配置。
母と娘のすれ違いを見事に映像化する手腕。
アメリカ的価値観に落ち着いてしまう展開は
いささか鼻白むけれど、スタッフロールの最後に
付けるオチまで安心のピクサー印。
今映画の勉強したい奴はジブリよりピクサーに
行くべきだなぁ。
赤ん坊の様にスッポンポンですよッ!


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