「すずめの戸締り」を鑑賞する。

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「すずめの戸締り」パンフレット
「すずめの戸締り」
「すずめの戸締り」新海誠本
「すずめの戸締り」新海誠本

配給:東宝
制作:コミックス・ウェーブ・フィルム
原作:新海誠
脚本:新海誠
監督:新海誠
2022年11月11日封切り

今や世界に誇る大作家になってしまわれた新海監督の新作だ。今回は特に同じ世界線の別の話、という訳でもなく自然災害に見舞われ続けてなんとなく衰退している日本が舞台だ。

以下ネタバレあり。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
映画は打ち捨てられた廃墟を歩く少女から始まる。
深々と草が生い茂り、人が戻ってきた風景ではないが、少女は母親を探している。
探し疲れて俯く少女の耳に草を踏みしめる足音が。
待ち人到来かと振り返るが、そこに立っていたのは見知らぬ女性だった。

いやぁ、子供が親を探す光景は卑怯やろう。誰にでも覚えがある、あの不安感。
映画の後半でこの廃墟は再び現れるが、主人公岩戸鈴芽の子供時代が居なくなった母を
探すあの混乱っぷりには胸を突くものがある。
「お母さんを知りませんか?誰か、お母さんを知りませんか!」

映画は災厄を招く扉を閉めて回る青年宗像と、不注意から扉を守る要石を引っこ抜いてしまった岩戸のロードムービーなのだが、同時に過去へと災厄を辿る、行きて帰りし物語になっている。今までになく普遍的で論理的な展開だ。かといって持ち味のエモさは手放していない。ロードムービーならではの道中出会う人々との邂逅がまたいい味を出してる。これがあるから廃墟で扉を閉める時に見る有りし日の営みに厚みが生まれる。そして日々の営みに共感するから一千万都市東京の災厄を払う為なら涙を呑んで要石を打つ。見事だ。

失ったはずの椅子がどこから湧いたのかは不明なままだが、行方不明の母親がずっと見守ってくれていたのだと考えれば、ここにも行きて帰りし物語が存在することになる。
面白かった。


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「天気の子」を鑑賞する。

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「天気の子」
「天気の子」
配給:東宝
制作:コミックス・ウェーブ・フィルム
原作:新海誠
脚本:新海誠
監督:新海誠
2019年7月19日封切り

「君の名は。」で新境地を開いた新海監督の新作だ。「雲のむこう約束の場所」を観たときの不満をふつふつと思い出したが、手管の多彩になった監督には問題では無かった様だ。なによりあの頃とはスタッフが違う。
異常気象で雨の降り止まない東京。田舎から逃げてきた少年森嶋は新宿で暮らすうち、局所的に天気を変えられる少女天野と出会う。貧しいふたりはその能力でお金を稼げないかと画策するが…。

以下ネタバレあり。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
雨に降り込められた新宿がまるでブレードランナーの様で。ツテを持たない子供に冷たい大人たち。持ち出したお金もあっという間に底を尽き、雨をしのぐ屋根もない。ツラい…ストレスの溜まる展開。救いは森嶋があまり深刻に落ち込まないところだ。どうしようもなくなる前に大人を頼る賢明さもある。須賀や天野との出会いは新宿での暮らしをかけがえのないものと思わせるには十分だったろう。にも関わらず…。
映画では雲を晴らせる天野を晴れ女としてその能力に焦点があたるが、むしろずっと雨ばかりになる天候の方が大問題なのでは。未知の自然現象、雲の上の巨魚の群れを描写しておいて、その解決に話が行かないのは視点が無力な子供である二人に向くから。視野も狭いし、やれることも限られてくる。周囲の大人は常識を振りかざすだけで助けにならない。そりゃ天野を救う為なら東京の一つや二つは水没させるだろう。

人間はずっと雲の晴れない時代を一つ知っている。数十万年に及ぶその間に滅びかけた。第四氷河期という。雨の続く気象を異常だと思うのは人間の都合で、たまたま人類の発展したこの数千年が晴れ間の多い間氷期だっただけだ。このシナリオがまだ身勝手な子供のわがままに思えないのは、そういう背景にもきっちりと筆を取っているからだろう。

これを斬新と取るか、二番煎じと取るかは、観た人のヲタク度によると思う。これが広く一般に受け入れられたら、世の中はちょっと変わったと思えるかな。面白かった。


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「君の名は。」を鑑賞する。

「君の名は。」
「君の名は。」
「生まれ変わったら東京のイケメン男子にしてくださいー!」
「その願い、叶えてしんぜよう。キュア、プラパパッ!」

本当に新海さんがこの脚本(ホン)を書いたのか?
無常観と云うかもののあはれと云うか、
「ほんに人の世といふはままならぬものよのう。」
「げにも、げにも。」
みたいな煮え切らん作風で、人間には興味ないんだとばかり
思っていたのに…。
神木隆之介くんはこんな役ばっかだな。
逆か。
こんな役の神木くんばっかり見てるんだな。

以下ちょっとばかりネタバレ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
天頂で崩壊した彗星の核がそんなまっすぐ落ちてくるかなー。
と思いはしたものの、大カタストロフまでは実に楽しめた。
殊に前半のとりかえばや物語のテンポの良さには唖然とした。
主人公二人の生き生きとした表情。
それを支える美しい背景。
場所がズレているだけでなく、時間も微妙にズレていることに
気付くあたりからの断絶と復帰。
正に内的なベクトルから走らざるを得なくなるドラマツルギー。
見事だった。

だけに、隕石落下から変わった未来を生きる二人が出会うまでが、
クドい。
むしろこっちのまだるっこしさの方が本来の新海節とも思える。
でも今までの新海作品なら、自分の常識に押し流されて、相手の名を
問うとこまでいかなかったろう。

観客はこの二人が濃密な時間を育んできたことを知っているんだから、
いきなり抱きついたって文句は言わない。その後、
「えっと…誰だっけ?」でも良かったろう。

新海監督はいっつも自作が不本意な受け取られ方をしてる、実力が
不足してるみたいな事をおっしゃるが、今回のこれはどうだったのだろう。

直球ストレートだったのか、ちょいと粋なフォークボールだったのか。
シナリオが初稿からこの形だったのかが気になるが、
素晴らしい作品だった。


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