記事タイトル:「残酷号事件」を読了する。 


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お名前: ななかん   
「残酷号事件」
「残酷号事件」

講談社NOVELS、上遠野浩平さんの新作。
「類別は怪人、名は残酷」

前作の「禁涙境事件」で頼まれもせんのに大暴れして、
事件を力任せに解決していった謎の超人、残酷号のこれは
出自にまつわる物語。
ヴェイルドマン・システムとか完全なる覇軍とか、今回も
面白ギミック満載ですが、一番感銘を受けたのはあとがき。

「子供の頃は正義の味方になりたかった」と冒頭で兵士に
語らせてますが、実は本人がそうだったそうで、正義の味方に
なる方法をずっと考えていたのだとか
でも悪とか正義とか考えれば考える程、偽善的に思えて
なかばあきらめていた所、教科書に「偽善のすすめ」なる
記述を発見。偽善の根本に悪があるのはしょうがない、
なればこそ偽善者となって、悪を気付かせなければ、それは
現象的には善行なのだ、と。
コレだッ!と思ったそうです。
これなら俺でも正義の味方に成れる!
みんなにこの素晴らしい教えを広めようとしますが、理解は
得られなかったそうで。

で、残酷号ですが。
世の中に困ってる人、苦しんでいる人、悲しんでいる人の叫びを
聞くと、彼は救わずにはいられません。
無敵のヴェイルドマン装甲をもって、あらゆる抑圧を粉砕します。
でもそこには名誉も展望もありません。
そもそも彼は生きてすらいない。
かつて大切だった人との会話をトリガーに、極悪非道な
ヴェイルドマン・システムを変質させて、さながら世界の敵に
対して自動的に起動する不気味な泡のごとく、機械的に正義を
断行するのです。

ヒーローとはなんなのか。

もはや上遠野さんはその宗教的性向を隠そうともしていません。
キャシャーンがやらねば誰がやるのか。
実に泣けました。(つД`)

[2009/04/15(Wed) 21:54]

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